魔女の宅急便をテレビでみた。金ローよありがとう。岡田斗司夫の言いつけをまもり、ちゃんと録画したので、ゆっくり観た。
改めて、気付かされることが多い作品だ。と思ったので整理してみた。
1.キキのへこたれない力
キキ、よわい13歳である。しきたりとかいって、両親の庇護を受けてきた環境を当たり前のように捨て、見知らぬ街で、身寄りもないのに一人で生活を始めなければならない。この状況に、彼女は「ワクワクする」とのたまう。およそまともな感覚と思えぬが、その積極性には目を見張るものがある。冒頭の先輩魔女への挨拶。不安を減らそうと、体験者の声を聞く。そして占いで生計を立てているという彼女の言葉で、自分には「暮らすための特技がないかも」ということを改めて突きつけられる。
だがそんな不安はおくびにも出さず、「暮らすなら海の見える街」と、彼女はビジョンを強く持って飛び続ける。成功者の思考の基礎、「願望への執着」をしっかり見せつけてくれる。
そして早速、理想の街を見つけて降り立つ彼女は、都会の洗礼を受ける。無作為に街中を飛び、接触事故を起こしかけ、道ゆく人には冷たくあしらわれ、オマワリに目をつけられて、気安く話しかけてくるナンパ男を振り切り、ホテルでは未成年であることを理由に宿泊を拒否される。開始早々、すでにすごい数の挫折や予想外の出来事を味わう(何なら昨夜は適当な天気予報のせいで雷雨に見舞われ寝不足)。
普通ならここで母親に電話し、実家に帰っても良さそうなもんだが、彼女は諦めなかった。
だけど、社会に出たばかりの新人OLだった私たちって、こうじゃなかったか?
私は少なくとも、キキと同じくらいの困難にぶつかった。卒業式を終えて新入社員研修の施設に到着したら施錠されていて、携帯の電池も切れて路頭に迷いかけたり、炊き込みご飯を初めて自作したらランチまでの間に腐ってしまったり、挨拶はしっかり!と思い毎日元気に過ごしていたのに、上司にはめちゃくちゃに冷たくされたり、不在時に寮で漏水がおき、嫌いな上司に部屋へ入られ、脱いだまま放置していたパンツを見られたり、寝坊して無断遅刻をしてしまったり。
完全に重なるわけではないが、困難に打ちのめされるキキの顔は、どこかでみたことがあるのだ。
話を戻し、キキの件。彼女は偶然、常連さんの忘れ物を届けようとしていたパン屋のおソノさんを助ける。ほうきでひとっ飛びして忘れ物を届けた彼女は、おソノさんに身の上話をし、うちの空き部屋使いなよ!と好意を受ける。おソノ。義理人情にアツいオンナ。下町出身?
2.キキの与える力
でも、忘れてはいけない。おソノさんはキキに恩を返したかったにすぎないことを。
ただ泣きべそをかいているだけの少女に出会ったなら、おソノさんも実家に帰れば?と促したかもしれない。だけど、キキはビジネスの基本である「他者貢献」を、幾多の困難に打ちのめされた直後でも初対面のおソノさん相手に自然にやってのける。しかも、自分のメリットを最大限に活かせる形で。これが、あたしが届けます!脚力には自信あるんで!とダッシュで届けたなら少し話は変わるのだ。
ここが素晴らしい。まず自分が与えられるものを最大限与えること。夢を手にしたいならば常にギバーであれ。キキはそこを潜在意識レベルで理解している強者なのだ。
3.キキの堅実さ
そして、無事部屋を借りたキキ。商売のアイディアを思いつき、それに向かってまっすぐ動き出す。
キキが日用品を買いに行った店でこぼした「暮らすって物入りね。」このセリフ。そう、暮らすとは、一人で生きていくとは、信じられないほど物入りなのだ。それを、初めて自覚した。13歳。早すぎるぞ。
その帰り、ショーウィンドウにうつる素敵な靴をうらやましく眺める。ここで買わないのが偉い。一方私はと言えば入社した瞬間に10万円のジャケットと5万円のブーツをボーナス一括払いで買い、その後すぐうつで休職して負債だけを抱える羽目になった。キキは堅実だ。身の丈を理解している。
4.キキの客観的視点と交渉しない交渉力
よく朝。キキはおソノのパン屋の仕事を手伝うことを買って出る。「私って、空を飛ぶしか能がないでしょ?」と、後にも先にもこの物語でしか聞けないと思われるセリフを吐くが、これがまた、自分の能力値を客観的に理解できていることの現れでもある。少し自己肯定感の低さは見えるが、例えばキキの母は飛べる+製薬技術、先輩魔女は飛べる+占い、と、飛べることは魔女にとっては初期設定レベルなので、飛ぶことすら下手な彼女からはこんなセリフが出てきて当然なのだ。が、キキは気づいていない。キキの持てる最大の能力は、「誰かの力になりたいという強い気持ち」であることに。
彼女は宅急便をはじめると宣言する。ここもうまい。うまいも何も戦略的ではないからこそ清々しさ、初々しさ、素直さが際立つのだが、自分の貯金を切り崩して電話を引き、商売の準備を整えるつもりだとおソノに話す。
お人好しのオソノ、部屋は継続して使って、店の電話を使いなよ、店番もしてほしいしさ。ついでに朝ごはんもつける!と誘い、キキは喜んで受け入れる。
この辺トントン拍子。新人の時でもさ、がむしゃらにやってく中で、なんとなくいい波がくるタイミングってあるよね。でもそれってよく紐解けば自分で引き寄せてるんだよ。おソノはたぶん直感で、この子は助けたらきっとしっかりやる子だと信じたんじゃないかと思う。それも全てはキキの引き寄せた運。偶然ではないのだ。
5.キキの仕事力と現実味のある嫌なヤツ
その後、何とか宅急便で頑張るキキ。パン屋の店番と複数件の仕事のタイムマネジメントも、適切な料金設定も自分で考える(おそらく途中から、距離と重さ、指定の希望日時などで運賃を分ける方式をとりはじめる。さすがクロネコヤマトの協賛とも言える)し、電話の受け答えも敬語もまあ完璧。細かいところはとりあえず走り出して、走りながら調整をかけていく。ベンチャー企業みたいなビジネスのおこしかたをしてる。何度も言うが、この子は13歳。39歳の女は正座してこのアニメを観なければいけない。
良かれと思って一生懸命に工夫して引き受けた仕事。さぞ喜んでくれるかと、雨でずぶ濡れになりながら大事に大事に料理を届けたその先で、不機嫌な女から「あたしこのパイ嫌いなのよね」と強烈な捨て台詞を浴びる。
なんと可哀想に!と目を背けたくなる、だけどよく思い返して。現実ってこんなもんじゃない???
お金もらって仕事してんだし、まあ自分のすべきことは果たしたんだからよしよし、つぎつぎ!って流して良い案件なのだ。キキに焦点を当てると過剰にキキに肩入れしてしまうけど、世間の常識に照らしたらあるあるだなあと思う。せっかくのパーティーにばあちゃんから不味いパイ届いた興醒め!って感じの不機嫌な女の態度、嫌なヤツめとは思うが、まあいるよね、客商売だし、って感じ。気にした方の負けである。
6.違う畑で頑張る先輩(メンター)
その後、トンボ、という恋愛要素が混ざってくるとともに、キキのメンタルは少しブレ始める。
そこで大きな問題発生。ある日突然魔法の力が弱くなり、空が飛べなくなってしまうのだ。
この、キキの魔法が弱くなった最大の原因。見知らぬ女の嫌味とか、雨に濡れて体調崩したとか、そういう仕事起因の挫折なんて可愛いものではない(いや、正確にはこれらも重なって、ということもあるだろうが)もっと、キキのアイデンティティの根幹を揺るがす、大きな大きな問題。そう、その名はコンプレックス。
自分の気になる人とせっかく気分よく楽しく過ごしていたのに、その人が自分の知らないキラキラした世界とつながっている現実を突きつけられ、「私なんて...」の不貞腐れメーターが全開になってしまう。
比較対象さえなければ。仲良くなった相手が、私とだけの世界に生きてさえいれば。こういうジェラシーとは向き合わなくて済む。だけど、社会はそう設計されてはいない。社会は他者と関わることでできていて、誰かと比較してより優秀なものが前に、上に、他者の見やすい位置に移動していく。13歳にとっては、残酷な世のことわり。キキが事業家として十分な素質を備えているとしても、この辺の気分の浮き沈みに翻弄される様は全然13歳だ。いやごめん39歳もそこそこ翻弄されています。不貞腐れを表出させないだけで。皆が一生付き合っていくんだ、ジェラシーやコンプレックスとは。
余談だが、ハヤオは13歳の女の挙動がどうしてこうも手を取るように細かくしつこいほどにわかるのだろうか。心で13歳の少女を飼っているのか??
これをきっかけにキキは魔力を一時的に失い、おそらくこれまで背けてきた自分との対話に強制的に時間を割かないといけなくなる。ここが最大の山場で、魔女のキキ成長ポイント。
その時に助言をくれたのは、自由気ままに森で暮らす絵描きのウルスラだった。
スランプの抜け出し方について、キキはウルスラへ問う。描いて描いて描きまくる、それでも描けなきゃ?描くのをやめる。何もしないでいるとまた描きたくなるんだ。そんな話をする。まさにメンター。
が、実際キキをスランプから救ったのは、他でもない彼女が持てる最大の才能、「人助けの力」だった。運悪く飛行船に宙吊りになったトンボを助けたい。その強烈な思いが彼女の力を甦らせる。
結局、どんなに周りに教えを乞うても、最後に自分を救うのは自分自身なのだ。いやもちろん、支えになってくれる人は沢山いたけど、困難にぶつかったら自分で乗り越えるしかない。当たり前だけど。勝手に助かるってやつ。本音は誰かに助けてもらいたい、手を掴んで引っ張り上げて後ろからお尻も押してほしい、でもそれはスランプの抜け出し方の本当のところではないんだと思う。
キキに関しても、ウルスラの話は参考程度で、無理に飛んで飛んで飛びまくったり、ボーッとして過ごしたりせずとも、キキはキキにもっとも適切なモチベーションで、自らのピンチを脱する。
この物語は、私たちに教えてくれる。
「与えよ、さらば与えられん。」
その上で
「自分を救うのは、成長した自分自身である。」
かつて一人で暮らしを始めた私へ。落ち込むこともあるけれど、私は元気です。


